色直しはなぜ、今も残るのか──儀礼から消費へ、それでも消えない「意味」

色直しを「する?しない?」、これは花嫁が迷うテーマの筆頭だ。だが、そもそも色直しとは何なのか。なぜ日本の婚礼にこれほど定着しているのか。

ウェディングドレスの買付けをはじめた頃、アメリカでカラードレスを探していたが、なかなか良いものが見当たらなかった。当時、国内ブランドでは見られなかった大人が着られるようなカラードレスを探していたのだが、アメリカの高校生がプロムパーティーで着るようなドレスばかりで諦めてしまった。他国では花嫁がカラードレスを着ることは特異であり、ウェディングドレスを仕入れるように簡単にはいかなかった。まさに日本特有の文化といえる。そして現代の花嫁にも関心を持たれ続けている色直しという慣習は、何を映しているのだろうか。

色直しの起源──婚家の一員になる儀礼として

神前式 参殿
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色直しはもともと「衣裳チェンジ」ではなかった。

室町後期に伊勢貞陸が著した『よめむかへの事』にすでに色直しの記述がある。嫁入り3日目に白い装いから色物の小袖へと改める。色物の小袖は婿側が用意したものであり、花嫁が色直しをすることは、嫁が婚家の一員になったことを表現する意味がある。色直しの前後で、付き添う女房衆の役割も変わる。それまで夫側の女房が配膳等の世話をしていたのが、色直し後は嫁方の女房が担う。花嫁の衣裳が変わることで、関係性も変わる。色直しは「衣裳を変える行為」ではなく、「女性の社会的位置づけが変わる瞬間」を可視化する装置だったのだ。

その後、時代が進むにつれ、武家から裕福な町人へと色直しの慣習が広がる。さらにこの慣習は、令和時代でも続くことになるのである。

昭和・バブル期──「新・お色直し」の誕生

昭和時代に入って色直しが広く浸透する。これまで限られた階層で行われていた色直しが、昭和30年代以降、貸衣裳業者や結婚式場の主導によって大衆化したのだ。階層を問わず、複数回の衣裳替えが一般化した現象を荒井は「新・お色直し」と位置づけ、婚礼衣裳が消費行動として再構築されたことを指摘している。

高度経済成長期、化学繊維産業の発展とデザイナーの桂由美によるウェディングドレスの既製服化が重なり、洋装の婚礼衣裳が一般の花嫁にも定着していく。バブル経済期には婚礼衣裳は一層華美となり、和装・洋装の両方を着用するスタイルが一般的となった。家格や見栄を優先する評価軸がより強くなる。当時のブライダル従事者によれば、婚礼における商品選択は高品質で贅沢なものが好まれ、花嫁衣裳については花嫁本人よりも親の意向が重視される傾向があったという。衣裳の選定基準は花嫁に「似合うか」ではなく、「家格にふさわしい格式・豪華さ」であるかという観点から判断され、和装洋装あわせて3〜4着を着用することが一般的であったと語る。

婚礼衣裳はこうして、「家」を示すメディアから、消費と演出の場へと姿を変えていった。

現代の花嫁にとっての色直し──自由と規範のせめぎ合い

お色直し

現代の花嫁にとって色直しの実施は個人による、と言われている。果たして本当にそうなのだろうか。

筆者によるアンケート調査では、「色直しは当たり前?無くてもよい?」という問いに対し、約60%が「無くてもよい」と答えている。「当たり前」は約39%と、複数衣裳を着用する色直しへの義務感はさほど高くない。しかし、色直し実施の理由を尋ねると、「着たい衣裳があった」「たくさん着たい」「楽しみたい」といった、個人の欲求や経験価値に基づく声が多くを占めた。一方、実施しなかった理由は「費用を抑えるため」が中心であり、経済的制約がうかがえる。

色直しの自由度をさらに探るために、周囲の期待やSNSの影響があったかを聞くと、影響があったと答えた花嫁はおよそ6割を占めた。色直しがゲストに披露する演出として考えられている様子や、花嫁が色直しをすることへの周囲の期待が暗黙の了解として存在している。

では、中世以降に色直しが持っていた「婚家の人間になる」という意味付けは、現代でどう捉えられているのだろうか。先の回答では個人的欲求を満たす消費行動との側面もうかがえたが、「白い花嫁衣裳と色物の両方を着ることに特別な意味を感じる」と答えた花嫁はおよそ6割にのぼった。花嫁自身も複数の衣裳を着ることに何らかの意味を感じ取っているようだ。色直しは「自由に楽しむ行為」として選択されると同時に、「花嫁らしさを演じる規範」を再生産する場にもなっている。「自由」と「制約」の両面が、色直しという慣習の中に同時に存在しているのだ。

なぜ色直しは消えないのか

色直しからは義務感が薄れたとはいえ、意味は残っている。これが色直しの現状ではないだろうか。

中世からの「婚家への従属」という色直しが本来持っていた意味は失われたといってよい。しかし、列席者に喜んでもらうという身近な関係性の中で、新しい意味が再生産されている。また、自己表現や体験を最大化する消費行動としての転換も浮かび上がる。

さらに昭和以降に一般化した色直しには、商品設計の背景もある。「2着目半額」のように、花嫁が色直しを実行しやすい設計になっている。また披露宴中の中座は場面転換や休憩の機会でもあり、衣裳替えを行う絶好のタイミングだ。制度上も実施されやすい慣習となっている。

色直しは、花嫁という役割の中で列席者に楽しんでもらうという暗黙の了解としての側面と、自己表現や消費行動としての側面を持つ。さらには、披露宴の運営や商品設計を背景に、花嫁が実施を選択させられている一面も否定できない。これら複数の理由が重なることで、室町期から続く「色直し」は現代にも存在し、その実施は花嫁を悩ませ続けている。

まとめ:色直しが映しているもの

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色直しをする・しない、花嫁のこの悩みは常に上がるテーマだ。結婚式が多様化したといわれても、多様化ゆえの悩みや迷いは尽きない。その中で現代の色直しは、さまざまな側面をみせている。「せっかくだからたくさん着たい」という花嫁の個人的欲求、親・パートナー・ゲストのために行う、結婚式のプランに衣裳が複数着組み込まれているから、または披露宴を間延びさせないため……といった関係性から実施されているようにも感じられる。

色直しという小さな儀式が映しているのは、いつの時代も、花嫁と誰かとの関係性だ。その「誰か」が婚家から、親へ、ゲストへ、そして自分自身へと変化してきただけで、花嫁が色を変えることの意味は、まだ問われ続けている。(text:Miho Ono 婚礼衣裳研究者 / 大学・短大・専門学校講師→ Research


【参考文献】

  • 荒井三津子「戦後の婚礼における『新・お色直し』の誕生と変遷」『生活文化史』36号、日本生活文化史学会、1999年
  • 塙保己一編纂「よめむかへの事」『群書類従・第二十三輯』続群書類従完成会、1980年
  • 長崎巌編著『日本の婚礼衣装 寿ぎのきもの』東京美術、2021年
  • ゼクシィ結婚トレンド調査2024、株式会社リクルート ブライダル総研
  • 「現代の花嫁衣裳選択をめぐる自由と規範──身近な関係性に着目して」修士論文、2025年(調査データ n=171)
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