花嫁は自由に衣裳を選んでいるのか──「身近な他者」と市場構造が生む、見えない規範

ロイヤルウェディングでは、花嫁の装いに誰が影響を与えているかが、はっきりと可視化される。ダイアナ妃は英国王室のために、キャサリン妃は王室の義務を果たしながら自分の美意識も重ねた。では、日本の一般的な花嫁は?

ドレス選びの現場では、花嫁の母親がこんな言葉を口にすることがある。「今の花嫁は好きなドレスを選べていいわね」と。果たして本当にそうなのだろうか。「自由に選んだ」という感覚の裏側には、何があるのだろうか。

9割の花嫁が「同じ場所」で衣裳を選んでいる

ウェディングドレス
Photo by Filipp Romanovski on Unsplash

日本ではおよそ9割の花嫁が花嫁衣裳をレンタルしている(ゼクシィ結婚トレンド調査2024)。さらにその手配場所は、「結婚式場」または「式場と業務提携している衣裳店(ドレスショップ)」が9割と圧倒的多数だ。インターネットを通じての購入・レンタルはわずか5.6%と、ネットショッピングが当たり前の令和の時代にあって、婚礼衣裳は依然として実店舗で選ばれている。

つまり、ブライダル産業全体がパッケージ化され、衣裳選びは式場・ホテルの契約と連動するサービスのひとつとして組み込まれているといえる。

式場・ホテルと提携している衣裳店では、式場の格や花嫁の見栄えに合った衣裳があらかじめ選別されていることが多く、選択肢の幅は一見豊富でありながら、一定の方向性があらかじめ規定されている。衣裳プランの価格設定も式場と連動しており、プラン内で収まる範囲のドレスと、「プラン外」として追加料金が必要な高額衣裳との間に、明確な差が設けられている。多くの場合、後者に新作ドレスや人気インポートブランド(Vera Wang、PRONOVIASなど)が該当するため、「着たいドレスを選ぶ」ためには追加費用が発生する構造になっている。

提携店以外で衣裳を手配する選択肢もあるが、提携店以外の衣裳の使用を禁じる式場も存在する。使用が認められる場合でも、「持ち込み料」として衣裳1点あたり数万〜10万円程度の追加費用が設定されており、経済的なハードルは依然として低くない。

さらに近年の傾向として、人気のドレスセレクトショップが仕入れる海外ブランドのラインナップを、他の衣裳店が取り扱う例も増えている。これにより、全国各地の衣裳店に同一ブランドや類似デザインのウェディングドレスが並ぶ「均質化」が進んでいる。地域差を埋め、選択肢の拡大を意味するようでありながら、実際には限定的な選択肢の提示でもある。

多くの花嫁は、知らず知らずのうちに「同じ場所」で衣裳を選んでいる、といっても過言ではない。選べる自由はある。でもそれは、提示された枠組みの中での自由だ。

「花嫁らしさ」は、誰の期待に応えているのか

花婿花嫁
Photo by Nathan Dumlao on Unsplash

「花嫁らしさ」は、SNSや社会一般への意識ではなく、パートナーや家族といった身近な関係性の中で意識されている。

これは、修士論文研究のために行った調査で浮かび上がった傾向だ。衣裳選びの際に「花嫁らしさ」を意識した花嫁はおよそ8割。そして「その花嫁らしさは誰の期待に応えるものか」という問いに対して、「パートナー」(約33%)と「家族」(約26%)が上位を占めた。

当初、私が高い数値を予測していたSNSをはじめとする「不特定多数の他者」は約10%と低く、抽象的な社会の目よりも、身近な関係性の中で「花嫁らしさ」という規範が機能しているようだ。花嫁自身は主体的に衣裳を選んでいると感じながら、身近な他者の期待をいつしか内面化している。

また、衣裳選びを親と一緒に行うことには、「親孝行パフォーマンス」とでも呼ぶべき、もうひとつの意味が浮かんでくる。ゼクシィ結婚トレンド調査では、結婚準備から当日を通じて親が嬉しそうにしていたこととして「ドレス・衣裳を一緒に選んだこと」(約48%)が上位に挙がっている。親子で婚礼衣裳を選ぶという行為は、幸せな家族関係を可視化し、世代を超えて継承される価値を体現する、小さなセレモニーなのだ。単なる消費行動ではなく。

SNSは自由を広げたのか、それとも新しい規範をつくったのか

wedding ceremony
Photo by Jonathan Borba on Unsplash

SNSは新しい自由の道具であると同時に、新しい規範の装置でもあるかもしれない。

「ゼクシィ結婚トレンド調査2024」では、50.5%の花嫁がウェディングドレスを検討する際の情報源としてSNSを挙げている。これまで婚礼衣裳の選定は、家族や式場スタッフ、衣裳店など限られた関係者の意向やアドバイスに依存していたが、SNSの登場により花嫁自身が広く情報へアクセスできるようになった。「このドレスが着たい」とSNSで見つけて来店する花嫁は、今や珍しくない。

さらに花嫁は、情報を受け取るだけでなく、発信者にもなった。Instagram、Pinterest、YouTube、TikTokといった視覚的・拡散的なプラットフォームは、婚礼衣裳をはじめ結婚式のあらゆる要素を「見せる」「真似る」「シェアする」行為へと接続させている。フォロワー数や「いいね」の数を参照しながら衣裳を選ぶ可能性も、否定はできない。

理想のウェディングドレスを着た花嫁がSNSに投稿し、それを見た次の花嫁が同じブランドや似たデザインを選んでまた投稿する。この循環が繰り返されることで、「理想の花嫁像」は少しずつ固定されていく。「自分らしいドレスを探していたつもりが、気づけばみんなと同じドレスになっていた」という構造だ。

SNSは、花嫁が自ら情報にアクセスできるという点で自由を拡大させている。その一方で、人気スタイルやアルゴリズムが選択を方向づける、新たな規範の装置にもなりうる。自由を生み出しているようで、同時に新しい規範を生み出している——そのような二面性を、SNSは持っているのかもしれない。

ロイヤル花嫁と一般花嫁、何が違うのか

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ロイヤルウェディングにおける花嫁と一般の花嫁は、多くの点で異なる。しかし逆説的に、規範が明文化されているロイヤルウェディングの花嫁のほうが、実は選択の余地を認識しやすいかもしれない。一般の花嫁に働く「見えない規範」は、明確でない分だけ、根が深いのではないか。

ロイヤルウェディングでは、国家・王室・国民という大きな他者が可視化されている。明文化されていない規範も数多くあるが、花嫁はその存在を認識することができる。納得するかどうかは別として。

たとえばダイアナ妃は、「清楚で若く美しい未来の王妃」という役割のために用意されたウェディングドレスを纏い、困難な時代の英国に光を与えた。時代が進むと、王室の役割に自身の美意識を重ねたキャサリン妃が、ファッショニスタとしても支持される未来の王妃として受け入れられた。

大きな他者を意識しながらも、時代とともに選べる余地が広がり、かつ何が選べるのかが可視化されている。

しかし、いわゆる普通の花嫁はどうだろう。本稿では身近な関係性の中の規範を取り上げたが、それ以外にも、まだ見えていない規範や、花嫁それぞれに固有の規範が存在するかもしれない。主体的に衣裳を選んだと感じている花嫁ですら、市場構造と身近な関係性という枠組みの中にいる。

見えないからこそ、無意識だからこそ、実は根が深い。

まとめ:「自分で選んだ」という感覚の意味

ロイヤル花嫁の規範は可視化されている。だからこそ、花嫁はそれを認識し、時に抗うこともできる。

普通の花嫁に働く規範は、愛情や市場の中に静かに組み込まれ、見えにくい。「自分で選んだ」という感覚は本物だ。ただ、その選択がどのように後押しされているかは、なかなか意識されない。

現代の花嫁は確かに「自由」を手にしている。しかしその自由は、構造的な制約と身近な関係性の規範の中に埋め込まれている。そして花嫁は結婚式の主役だからこそ、喜んで規範を取り入れることもある。能動的な規範も、受動的な規範も、どちらも見えにくい。

自分の選択が何に支えられているかを知ること。それは、花嫁自身の「自由」をより深く生きるための、ひとつの手がかりになるかもしれない。(text:Miho Ono 婚礼衣裳研究者 / 大学・短期大学部 講師 → Research


【参考文献】

  • ゼクシィ結婚トレンド調査、株式会社リクルート ブライダル総研
  • 「現代の花嫁衣裳選択をめぐる自由と規範──身近な関係性に着目して」修士論文、2025年(調査データ n=171)
カテゴリー
Research
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