「このデザインにしたほうが、花嫁っぽいですよね?」
ある授業で学生がそう尋ねてきた。
花嫁っぽい、とはどういう意味だろう。
私は少し考えてから、「あなたはどう思う?」と聞き返した。
学生たちによるドレスショー制作中、学校からは「ブライダルらしい」ドレスショーにするよう指針が示された。これまで学生たちの質問は「どうやったら可愛くなるか・おしゃれになるか」等だったものが、冒頭のような「花嫁らしさ」を問う類に変わった。中には「何が花嫁らしいのか分からない」と悩む学生もいたが、総じて彼ら、彼女たちなりの「花嫁らしさ」の基準が出来上がっていたように思う。
花嫁らしさ、とは一体何なのだろうか。
「花嫁らしさ」を意識した花嫁は約8割

修士論文執筆時に行った調査では、約8割の花嫁が、衣裳選びにおいて「花嫁らしさや女性らしさを意識した」と答えた。その内訳は、「とても意識した」約41%、「少し意識した」約35%——つまり、強く意識した花嫁だけでも4割を超えている。率直な感想を述べると、多いと思った。花嫁らしいという定義は人によって微妙に異なることを考慮しても、多すぎる気がする。
冒頭で触れたドレスショーでは、「花嫁らしさ」を指示した結果、以前のように個性的でエッジの効いたドレスは数えるほどになり、実際にドレスショップに並んでいるようなデザインのドレスが中心となっていた。ショーの構成も、展示会のショーのごとく静々とモデルが歩く、バイヤーにドレスを見せるためのショーのようであり、これまでの「魅せる」ためのショーから大幅な変革だ。
「花嫁らしさ」を学んだ学生たちは、その後ドレスショップや結婚式場などでその学びを胸に働く。ウェディングプランナー、ドレスコーディネーターなど婚礼のプロとして、花嫁に「花嫁らしさ」をアドバイスしながら。こうして「花嫁らしさ」は脈々と受け継がれているようだ。
そして、前出調査にて花嫁らしさを「意識していない」と答えた約16%の花嫁は、どんな人たちなのだろうか。花嫁らしさ以外の軸が、すでに自分の中にあった人、それとも、花嫁らしさを知らず知らずのうちに受け取っていた人たち、かもしれない。どちらであれ、「意識しなかった」という事実が、その花嫁にとっての「花嫁らしさ」だったのかもしれない。
その「花嫁らしさ」は、誰のため?
前出調査では、花嫁らしさは、パートナー約33%、家族約26%に対して意識されているという傾向が出た。その次の対象には列席者などが続き、SNSなど不特定多数の他者からのイメージは約10%であった。この傾向により、花嫁らしさは抽象的な「社会の目」よりも、「隣にいる人の目」が気になるという、「身近な関係性」が規範を作り出している様子が伺える。
規範を「内面化する」とはどういうことか

「内面化」とは、外から与えられた価値観を、いつしか「自分の気持ち」として感じるようになることを指す。
ある花嫁は、衣裳選びの際に1人でドレスショップを訪問し、契約するドレスショップも自ら決定したが、最終的にウェディングドレスを決定する際はパートナーと一緒に来店し、アドバイスをもとに決定した。パートナーはファッション好きなので、彼にアドバイスを求めつつも、自分が気に入るドレスを自分の意志で決定できたと花嫁は話す。
この花嫁は主体的にドレスを選んだと感じている——そしてそれは本当のことだ。ただ、その「主体性」の中には、パートナーと一緒に協力して衣裳選びをしていることによる、相手への気配りや愛情が存在している。パートナーにも喜んでほしいという気持ちが、すでに織り込まれているのではないだろうか。どちらが先か、という話ではない。愛情と規範は、そのくらい近いところにある。
「花嫁らしさ」は悪いものか
「規範」と聞くと、少し堅苦しいイメージがある。自由を奪われているような、息が詰まるような響きもある。でも「花嫁らしさ」の根底にあるのは、本当に制約だけだろうか。
「ゼクシィ結婚トレンド調査2021」でも、結婚準備から当日にかけて親が嬉しそうにしていたこととして、「衣裳を一緒に選んだこと」が約48%と、当日の親へのサプライズ演出に続いて高かった。親と一緒に衣裳を選ぶ行為は、一見、主体性のなさや不自由という印象を与えるが、実はこれは「娘から親への親孝行」パフォーマンスともとれる。多くの親にとって、娘の花嫁姿を見ることは喜びだ。その時間を共有することは、気配り、そして愛情でもある。
「花嫁らしさ」は制約として捉えられることもあるが、花嫁が無意識に自ら選択している可能性もある。現代の「花嫁らしさ」は、知らず知らずのうちに受け取った規範であると同時に、愛情から能動的に選ばれている規範でもあるのかもしれない。
では、「自分らしい花嫁像」はどう作るのか

「自分らしい花嫁像」とは、規範との距離感から生まれるものかもしれない。距離感ゼロが自分らしさになる人もいれば、規範から遠く離れることで自分らしさが生まれる人もいる。だから、規範を知ること、そしてその距離感を測ることが、自由への第一歩になる。
「誰のために花嫁らしくあるのか」を1度だけ意識してみる。それだけで、選択の見え方が変わる。「花嫁らしさ」という規範は、花嫁を縛り付けるものではない。
答えは人によって違う。でも問いを持つことに意味がある。
結婚式準備に疲れたとき、ドレスの最終決定に迷ったとき、お色直しをするかしないか迷ったとき——誰のために? 何のために? と、ひとまず立ち止まるだけでいい。それだけで、より意識的に選ぶことができるかもしれない。迷いが、少し軽くなるかもしれない。
お色直しの選び方について、こちらの記事もあわせてどうぞ。
→ お色直しは、する? しない? 迷ったときに整理したいこと
まとめ:「花嫁らしさ」の正体
規範は、花嫁から自由を奪う悪ではない。
視点を変えるための、ツールだ。
「花嫁らしさ」の正体を知ることは、それを手放すためではなく、より意識的に選ぶためにある。だからこそ、結婚式やドレス選びで疲れたとき、悩んだときにこそ、立ち止まって思い出してほしい。
誰のために、何のために——。
その問いをひとつ持つだけで、
ドレス選びの景色は、少し変わって見えるかもしれない。(text:Miho Ono 婚礼衣裳研究者 / 大学・短期大学部 講師 → Research)





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