教会でもお城でもなく——テイラー・スウィフトが選んだ「アリーナ」という祭壇

教会でもお城でもない。テイラー・スウィフトが選んだ「人生を語る場所」

一般的な結婚式では、教会や歴史的建造物、ガーデン、ビーチなどが舞台となることが多い。しかし、テイラー・スウィフトが選んだのは、私たちがテイラーにとって「職場」だと考えるアリーナだった。

その選択は、単なる話題性ではなく、現代のウェディングにおける祭壇の意味そのものを問い直している。

「祭壇」は、なぜ教会だったのか

キリスト教挙式
Photo by Josh Applegate on Unsplash

結婚式は、共同体に迎え入れられる儀式だった

中世ヨーロッパでは、教会は地域社会の中心的存在として、宗教的な儀式、礼拝の場であるだけでなく、地域住民が集まる社交の場としても機能していた。教会での活動は、地域社会に深く根ざし、人々の共同体意識を形成していたともいえる。そんな教会で行われる儀式の1つが結婚式だ。教会の祭壇にて、神への誓いと共同体への承認の双方が行われていたといえる。

テイラー・スウィフトにとって、アリーナはただの「仕事場」ではない

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人生を築いた場所だからこそ、誓いの場となった

2023〜2024年に行われていたThe Eras Tourは、テイラーのキャリア集大成ともいえるツアーだった。このツアーだけでなく、2000年代を代表するスターとしてテイラーは文化的、経済的、政治的影響を及ぼしながら一時代を築き上げている。実体験に基づいたといわれる曲、等身大の歌詞は多くの女性に支持され、華やかな交友関係も注目されている。そして、ロマンティックでスイートな作品だけでなく、自身の曲の権利を買い戻し勝ち取った*意志の強さ、エネルギー溢れるタフさ。それを支える熱狂的なSwifties**だけでなく、多くの人々に驚きと影響を与え続けている現代のアイコンは、さまざまな困難も乗り越えているようにみえる。

特別なアリーナとして選ばれたのはMSGだ。テイラーが20年間のうち8回公演を行っている、世界で最も有名なアリーナである。MSGは「最高にロマンティックな場所とはいえない」としながらも、ウェディング業界で20年のキャリアを持つJessica Jordan氏は、The Postの取材に対し、実務的には見事な選択だと評している。なぜなら、花婿花嫁だけでなく、多くのセレブリティも列席するこのビッグ・イベントは安全上の配慮を最も必要とするからだ。一方で、これまで度々プリンセスの美学を表現してきたテイラーが、NYという街の選択、MSGという会場の選択をやや衝撃的に捉えているファンの声も伝えている。作品から連想される、テイラーのロマンチックなイメージとのギャップが、アリーナという選択を無機質に感じさせているのだろう。

しかし、テイラーにとって、喜びも苦しみも積み重ねた場所がアリーナであったことも考えられる。ファンとともに多くの感情を共有した場所が、彼女の人生を語る空間として、アリーナ以外には考えられなかったとも感じる。テイラーにとってアリーナは、ただの「仕事場所」ではなかったのかもしれない。

*2019年、テイラーの初期楽曲の原盤権を持つレーベルが、スクーター・ブラウンの会社に買収された経緯を指す。テイラー自身に権利を買い戻す機会が与えられなかったことが騒動となった
**テイラー・スウィフトのファンの愛称

現代のウェディングは、「聖地」を自分たちで選ぶ時代へ

人生そのものが、祝福される場所になる

教会だけが聖なる場所ではない。ビーチやガーデン、美術館、ワイナリー、自宅など、自分たちの思い出の場所や、自分たちらしい場所でのウェディングが支持されている。

たとえば、リゾート地にて家族だけのウェディングは、以前からあるスタイルではあるが、やはりその地が2人の思い出である場合や、家族との思い出の地であるがゆえ実施されるケースも多い。

日本ではまだ少数派ではあるが、それでも祝福を迎える場所の意味が変化しているように感じられる。

「制度を借りない」という選択が語るもの

ティアラ
Photo by Jordyn St. John on Unsplash

王室のティアラを借りなかったハリエットとの共通点

テイラーのウェディングのおよそ1ヶ月前に行われた、ピーター・フィリップスとハリエット・スパーリングのウェディングでも、制度ではなく、自分の人生にふさわしい選択肢を選んだと感じられるシーンがあった。それは、ハリエットの頭上を飾ったティアラである。

ハリエット・スパーリングは、ピーターの母アン王女からティアラを借りない選択をチョイスしたようだと報道された。身に着けたのはPragnellのダイアモンドとパールをあしらったティアラであった。伝統を否定したのではない。よりプライベートな祝福としての選択、またある報道では、アン王女のティアラを結婚式で着用した、王女の娘ザラ・ティンダルや、ピーターの前妻オータム・ケリーとの比較を意図的に避けるためとも報じられている。

テイラーもまた、現時点での報道ベースの情報によれば、教会での挙式は行われておらず、教会という伝統を借りていないといえる。代わりにアリーナ、世界で最も有名なアリーナであるMSGを選んでいる。つまり、自分の人生にふさわしい象徴を選んだのだろう。

2人は、伝統や慣習を否定する、ないがしろにしているのではなく、自分の祝福する場所を自分の意志で選んでいるのではないだろうか。

再婚の花嫁がティアラをまとう時代へ——ロイヤルウェディングの変化

現代のウェディングは、自分の物語をまとう儀式へ

「何を選ぶか」より、「何を選ばないか」が花嫁の意思になる

以前は、教会や王室、家柄、伝統……これらが結婚という祝福を与えていた。しかし、現代は、仕事や家族、人生経験、パートナーとの物語が選択の中心に置かれる。それらを象徴するものを自ら選び取ることが、ウェディングの意味になりつつあるのではないだろうか。

まとめ:「何を選ぶか」から「何を選ばないか」へ

挙式
Photo by Hisu lee on Unsplash

テイラー・スウィフトが自らの祝福の場として選んだのは、教会ではなかった。それは伝統を捨てたのではなく、自分が人生を築き上げてきた場所を祝福の舞台に選んだということだった。

英国王室ゆかりのティアラを選ばなかったハリエット・スパーリングの選択とも重なるように、現代のウェディングでは「何を選ぶのか」だけでなく、「何を選ばないのか」が、その人らしさを静かに語っている。

結婚式は、決められた形式をなぞるものではなく、自分たちの人生を映し出す舞台へと少しずつ変化しているように感じられる。つまり、現代の結婚式における教会の祭壇とは、人生で最も大切な場所を指すのかもしれない。(text:Miho Ono 婚礼衣裳研究者 / 大学・短期大学部 講師 → Research

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